第1回の DFT・SCF・QE の考え方から、教科書の立方体の図、QE の入力ファイル、バンド図の横軸のつながりまでを、図を動かしながら確認するためのページです。図はドラッグで回転、ホイールで拡大できます。バンドの数値は、講義と同じ条件で QE を実行して得たものです。
QE がやっているのは「結晶の中の電子についてシュレーディンガー方程式を解く」ことです。ただし、そのままでは解けないので、DFT という考え方で問題を小さくし、SCF という繰り返し計算で答えを出します。
講義で習ったシュレーディンガー方程式 Hψ = Eψ は、電子が1個なら3次元(x, y, z)の問題です。ところが電子どうしは反発し合うので、N 個の電子をまとめて表す波動関数は 3N 個の変数の関数になります。各変数を10点ずつに区切って数値で持つだけでも、必要な数は次のように爆発します。
| 電子の数 N | 波動関数の変数の数 | 10点ずつ区切ったときの数 | 例 |
|---|---|---|---|
| 1 | 3 | 10³ = 1000 | 水素原子 |
| 2 | 6 | 10⁶ | ヘリウム原子 |
| 8 | 24 | 10²⁴ | Si 基本格子の価電子(この講義の計算) |
| 28 | 84 | 10⁸⁴ | Si 基本格子の全電子 |
DFT(密度汎関数理論)は、波動関数の代わりに電子密度 n(r)(場所ごとの電子の濃さ)を主役にします。電子密度は電子が何個あっても x, y, z の3変数だけの関数です。「一番エネルギーの低い状態(基底状態)は、電子密度だけで決まる」ことが証明されている(ホーエンベルグ・コーンの定理)ので、これで足ります。
実際の計算では、コーン・シャム方程式を解きます。電子どうしの反発を「ほかの電子がつくる平均の場」に置き換えて、電子1個ずつの方程式にしたものです。
| 項 | 意味 | 入力・出力との関係 |
|---|---|---|
| −(ħ²/2m)∇² | 電子の運動エネルギー。講義のシュレーディンガー方程式と同じ | 平面波で表す(下の4) |
| Vイオン | 原子核(と内側の電子)から受ける引力 | 擬ポテンシャル Si.pbe-n-rrkjus_psl.1.0.0.UPF |
| Vハートリー[n] | ほかの電子全体から受ける反発(電荷の雲としての平均) | 電子密度 n から計算 |
| Vxc[n] | 交換相関。量子力学特有の効果で、正確な式は分かっていない | 近似を選ぶ。この講義は PBE(出力の Exchange-correlation= PBE) |
Vxc が近似であることが、PBE でバンドギャップが 0.58 eV(実験値 1.12 eV)と小さく出る原因です。スライド6とスライド9の工夫④の「理論の限界」はここにつながります。詳しくは次の「PBE とは何か」で扱います。
上の式には「鶏と卵」の関係があります。Veff を作るには電子密度 n が要り、n を求めるには方程式を解いて ψ を出す必要があり、ψ を出すには Veff が要ります。そこで、仮の密度から始めて、入れた密度と出てきた密度が一致するまで繰り返します。一致した状態を自己無撞着(self-consistent)と呼び、この計算を SCF(self-consistent field)計算と呼びます。第1回の成果物「計算手順図」は、この流れの図です。
下の図は、手順①〜⑦をブラウザの中で実際に計算しながら1つずつ進めます。Si の3次元の計算は重いので、同じ仕組みの1次元のモデル(長さ10の箱に原子2個・電子4個、原子単位)を解いています。手順ごとに、図の箱・式・コードの行・数値・グラフが一緒に切り替わります。
グラフの見方:左は電子密度です。灰色の点線が①の最初の密度、青の実線が今の入力 nin、赤の破線が③④で出てきた nout です。繰り返すたびに2本の差が縮み、ぴったり重なったところで収束です。右は⑤で計算した誤差の目安 Δ で、1回ごとにほぼ一定の割合で下がっていきます(上の Si の QE 計算と同じ傾向)。mixing_beta を変えると回数が変わります(0.3:45回、0.5:24回、0.7:15回、1.0:9回)。
このコードは 配布物の tools/toy_scf_1d.py として保存してあり、NumPy の入った Python でそのまま実行できます。ページ内では同じ計算を JavaScript で行っていて、全エネルギー −2.33827010 Ha と回数が Python の実行結果と一致します。
⑥で新しい密度をどれだけ混ぜるかが mixing_beta です。値を変えて同じ Si の SCF を4回実行し、繰り返しごとの「誤差の目安」(出力の estimated scf accuracy)を並べました。灰色の点線が収束の基準 conv_thr = 1.0d-8 です。
縦軸は対数目盛りで、1目盛り下がるごとに誤差が1/10になります。右は選んだ値で実行したときの出力の該当行です(講義の Si.scf.out にも同じ形式で出ます)。どの値でも最終的な全エネルギーは −22.83957491 Ry で、8桁まで一致します。混ぜる割合が小さい(0.1)と慎重に進むぶん回数が増え(10回)、0.7 では5回で収束します。Si は素直な物質なので 1.0 でも収束しますが、金属や磁性体では大きすぎると密度が振動して収束しないことがあり、そのときは小さくします。
ecutwfc(単位 Ry)です。大きいほど正確で、計算は重くなります。どこで十分かを第3回で受講者自身が調べ、30 Ry を選びます。number of electrons = 8.00 と出ます。この講義の擬ポテンシャルはウルトラソフト型(USPP)で、そのため電子密度用のカットオフ ecutrho を ecutwfc の8倍(240 Ry)にしています。Quantum ESPRESSO(QE)は、平面波と擬ポテンシャルで DFT 計算をする無償のオープンソースのプログラム群です。1つのソフトではなく、役割ごとのプログラムを順に使います。中心は pw.x で、ほかは pw.x の結果から必要な量を取り出す「後処理」です。
| プログラム | 役割 | 講義の回 | 何を読むか |
|---|---|---|---|
| pw.x | SCF 計算(電子密度と全エネルギー)。calculation を変えるとバンド計算や nscf 計算も行う | 第2〜6回 | 全エネルギー、固有値 |
| bands.x | バンド計算の結果を、経路に沿ったバンド図用に並べ直す | 第4・5回 | バンド図 |
| dos.x | 状態密度(DOS) | 第6回 | エネルギーごとの状態の数 |
| projwfc.x | 部分状態密度(PDOS)。s・p 軌道の成分に分ける | 第6回 | 3s / 3p の寄与 |
| pp.x | 電子密度を取り出して、VESTA で見られる形にする | 第7回 | 電子密度、差電子密度 |
計算の順番:まず pw.x の SCF で電子密度を作る → それを土台に、バンド図(pw.x の bands → bands.x)、DOS・PDOS(pw.x の nscf → dos.x / projwfc.x)、電子密度(pp.x)へ枝分かれします。SCF が全部の出発点なので、第2・3回でその条件をしっかり決めます。
入力ファイルは、&名前 で始まり / で終わる段落(ネームリスト)と、大文字のカードでできています。講義の Si.scf.in を分けると次の通りです。結晶構造の行(ibrav など)の意味は図1で詳しく扱っています。
&CONTROL ! 何をするか calculation = 'scf' ! SCF 計算(ほかに 'bands', 'nscf' など) prefix = 'silicon' ! 結果ファイルの名前の頭 outdir = './tmp/' ! 結果の置き場所(後処理がここを読む) pseudo_dir = '../pseudo' ! 擬ポテンシャルの置き場所 / &SYSTEM ! 何を計算するか(結晶と精度) ibrav = 2, celldm(1) = 10.26, nat = 2, ntyp = 1 ecutwfc = 30.0 ! 平面波の上限(第3回で選ぶ) ecutrho = 240.0 ! 電子密度の上限(USPP なので 8 倍) / &ELECTRONS ! どう解くか(SCF の進め方) conv_thr = 1.0d-8 ! 手順⑤の基準(Ry) mixing_beta = 0.7 ! 手順⑥の混ぜる割合 / ATOMIC_SPECIES ! 元素・質量・擬ポテンシャル Si 28.0855 Si.pbe-n-rrkjus_psl.1.0.0.UPF ATOMIC_POSITIONS (alat) ! 原子の位置(図1の Si₁, Si₂) K_POINTS (automatic) ! k 点の網目(図2の下の説明) 6 6 6 1 1 1
| 出力の行(この PC の実行結果) | 意味 |
|---|---|
| number of electrons = 8.00 | 計算した価電子の数(4個 × 2原子) |
| number of k points= 28 | 6×6×6 = 216 点のうち、対称性で同じになる点をまとめて 28 点だけ計算した |
| convergence has been achieved in 5 iterations | 手順②〜⑥を5回まわして収束した |
| ! total energy = −22.83957491 Ry | 全エネルギー。行頭の ! が収束した最終値の印。1 Ry = 13.606 eV なので約 −310.8 eV。値そのものより、条件を変えたときの差に意味がある(第3回の収束性はこの差を見る) |
| highest occupied, lowest unoccupied level (ev): 6.0661 6.9844 | 計算した k 点の中で一番高い占有準位と一番低い空準位。注意:この網目(1 1 1 でずらした 6×6×6)には Γ 点が含まれないので、6.0661 eV は本当の VBM(Γ 点、6.21 eV)ではない。差 0.92 eV もギャップではない。ギャップはバンド計算(図3)で読む |
単位の目安:エネルギー 1 Ry(リュードベリ)= 13.606 eV、長さ 1 bohr = 0.5292 Å。QE の入力と出力は、この「原子単位」が基本です。
PBE は、コーン・シャム方程式の中で正確な式が分かっていない「交換相関」の項 Vxc を近似する方法の1つです。1996年に Perdew・Burke・Ernzerhof の3人が発表したので、頭文字をとって PBE と呼びます。電子密度だけでなく電子密度の傾きも使う「GGA(一般化勾配近似)」という種類で、固体の計算で最もよく使われています。
コーン・シャム方程式では、電子どうしの反発を「電荷の雲としての平均」(ハートリー項)で表しました。しかし実際の電子は、平均の雲のように振る舞うだけでなく、お互いを避け合っています。この避け合いの効果が交換相関です。
どちらも、ある電子のまわりに「ほかの電子が少ない領域(交換相関の穴)」ができる効果と考えられます。この穴の正確な形を求めるのは、もとの多電子問題を解くのと同じくらい難しいので、近似が必要になります。
LDA(局所密度近似)は、「その場所の電子密度 n(r) と同じ濃さの、一様な電子ガス」の交換相関エネルギーをそのまま使う方法です。一様な電子ガスの値は精密に分かっているので、場所ごとの密度だけで計算できます。
ところが、実際の結晶では電子密度は場所によって大きく変わります。原子の近くは濃く、原子の間は薄い。GGA は、密度の傾き ∇n も使って LDA を補正します。PBE の交換エネルギーは次の形です。
Fx(s) は「LDA を何倍に強めるか」を表す増強因子です。密度がほとんど変わらない所(s = 0)では 1 で LDA と同じになり、密度が急に変わる所ほど大きくなります。κ と μ は、合わせたい実験値ではなく、量子力学として満たすべき条件(一様な電子ガスの極限や、交換エネルギーの上限など)から決められています。これが PBE が「特定の物質に合わせ込んでいない」と言われる理由です。相関エネルギーにも同じ考え方の傾き補正が入っています。
横軸 s は密度の変わりやすさ、縦軸は交換エネルギーを LDA の何倍にするかです。LDA はどこでも 1(灰色の線)、PBE は s が大きいほど強めて、上限 1 + κ = 1.804(点線)に近づきます。PBEsol は固体の格子定数を良くするために μ を小さくした改良版で、同じ形でもっと緩やかです。固体の価電子の領域ではおおむね s = 0〜3 程度の範囲が効いてきます。
交換相関の近似は、使う情報を増やすほど上の段に上がる「はしご」として整理されます(Perdew の「ヤコブのはしご」)。上の段ほど一般に正確ですが、計算は重くなります。
右側のギャップは、PBE のみこの PC で計算した値です。ほかは文献でよく報告される代表的な値の目安で、擬ポテンシャルや計算条件によって 0.1 eV 程度は変わります。
この講義の Si のギャップは 0.57 eV で、実験値 1.12 eV の約半分です。これは計算の失敗ではなく、近似の性質です。理由は大きく2つあります。
この過小評価は Si だけでなく、半導体・絶縁体に共通の傾向です。たとえばゲルマニウムでは PBE のギャップがほぼ 0 になり、ダイヤモンドでも実験値 5.5 eV に対して 4 eV 台にとどまります。
講義の入力は、格子定数に実験値(celldm(1) = 10.26 bohr = 5.43 Å)を使っています。PBE で一番エネルギーが低くなる格子定数を調べるため、格子定数を6通り変えて SCF 計算をしました(30 Ry、6×6×6)。
点が計算値、曲線が状態方程式(バーチ・マーナハンの式)で当てはめたものです。PBE の最安定の格子定数は 5.470 Å で、実験値 5.431 Å より 0.7% 大きく出ます。曲がり具合から求めた体積弾性率(縮みにくさ)は 89 GPa で、実験値(約 98 GPa)より小さめです。どちらも「PBE は結合をやや弱く見積もる」という、よく知られた傾向どおりです(LDA は逆に格子定数を 1% 程度小さく出す)。講義では、この差の影響を避けるために実験の格子定数を使っています。
| 性質 | PBE の結果 | この講義との関係 |
|---|---|---|
| 結晶構造・格子定数 | ○ 実験値より 1% 程度大きめ(Si:+0.7%) | 入力では実験の格子定数を使う |
| バンドの形(曲がり具合)・分散 | ○ おおむね良い | VBM・CBM の位置(Γ点、Γ–X の約85%)は正しく出る。発展編の有効質量もこの「形」を使う |
| 電子密度・結合の様子 | ○ 良い | 第7回の差電子密度で Si–Si 結合を見る |
| バンドギャップの大きさ | × 小さく出る(Si:0.57 eV ⇔ 1.12 eV) | スライド6・スライド9 の工夫④で「近似の限界」として議論する |
| ファンデルワールス力(層の間の弱い力) | × ほぼ表せない | Si では関係しない。層状物質では補正が必要 |
| 局在した d・f 電子(遷移金属酸化物など) | × 苦手 | Si では関係しない |
Si.pbe-n-rrkjus_psl.1.0.0.UPF の名前の pbe がその印で、ファイルの中にも functional="PBE" と書かれています。擬ポテンシャルは作るときに汎関数を決めているので、汎関数を変えたいときは、その汎関数で作った擬ポテンシャルに替えるのが原則です(input_dft で上書きもできますが、組み合わせがずれるので勧められません)。Exchange-correlation= PBE の次の行の ( 1 4 3 4 0 0 0) は、内訳の番号です。順に、交換の LDA 部分(スレーター)、相関の LDA 部分(Perdew–Wang)、交換の傾き補正(PBE)、相関の傾き補正(PBE)を表します。格子定数の計算の入力と結果は 配布物の qe/04_lattice/ に保存しました。
基本的にはテキストエディタで書くファイルです。QE 本体には入力を作る画面がありません。ただ、白紙から書く人はほとんどいません。既存の例をコピーして、必要な行を書き換えるのが普通です。
pip install ase で入れられます。講義では、各回のフォルダ(02_scf_crystal、04_band_calc など)に入力ファイルが配布されています。受講者は中身を読み、ecutwfc や k 点の数などの一部を書き換えて実行します。第3回の収束性の調査がその例です。白紙から書くことは前提にしていません。
課題①の対策「結晶構造の図と入力ファイルを1対1で対応させる」は、配布された入力の各行が、構造のどこに対応しているかを図で確かめる、という意味です。下の図1と図2がちょうどその対応になります。
デモ:原子の位置でしか波を見られない。●が原子の位置です。実線が k の波、点線は k に 2π/a を足した細かい波です。2本は見た目がまったく違うのに、原子の位置(●)での値は完全に一致します。原子から見ると同じ状態なので、k は −π/a〜π/a(全長 2π/a)の範囲だけ考えれば足ります。これを3次元に広げたものがブリルアンゾーンです。k = 0.5 × 2π/a(= π/a)が、この1次元の箱の端(3次元では X 点などに相当)です。
灰色の立方体が教科書の慣用格子(一辺 a = 5.43 Å)です。立方体に見えている原子は18個ありますが、角の原子は8つの立方体で共有されるので、立方体1つ分は 角 1/8×8 + 面 1/2×6 + 内部 4 = 8個です。琥珀色の斜めの箱が基本格子で、大きく表示した2個(Si₁, Si₂)が QE の ATOMIC_POSITIONS に書く2原子です。この2個を基本格子の箱ごと敷き詰めると、結晶全体ができます。
ibrav = 2 ! 面心立方(fcc)の基本格子を使う = 図の琥珀色の箱 celldm(1) = 10.26 ! 灰色の立方体の一辺 a(bohr)。10.26 × 0.5292 ≒ 5.43 Å nat = 2 ! 箱の中の原子 = 大きく描いた 2 個 ATOMIC_POSITIONS (alat) Si 0.00 0.00 0.00 ! Si₁:立方体の角 Si 0.25 0.25 0.25 ! Si₂:対角線を 1/4 進んだ位置(Si₁ と結合)
補足:図の基本格子は、立方体の中に収まって見やすい3本のベクトル (0,½,½)a、(½,0,½)a、(½,½,0)a で描いています。QE の ibrav = 2 が内部で使うベクトルは (−½,0,½)a などで、向きの取り方が少し違います。ただし表している格子はまったく同じです。
Si(fcc)のブリルアンゾーンは、正方形6枚と六角形8枚でできた立体(切頂八面体)です。青緑の線が講義の k 点経路 L → Γ → X → K → Γ です。原点 Γ からの距離は 2π/a を単位にしています。「伝導帯の谷」を押すと、伝導帯の底(CBM)がある6か所(Γ から各 X 方向へ約 85% の位置)が表示されます。発表2のΔ谷はこれのことです。「結晶方位」のボタンで <100>・<110>・<111> の向きを重ねられます(図1と連動、説明は図2の下)。
K_POINTS (crystal_b) の数値は、基本格子に合わせた斜めの軸で測った座標です。教科書は立方体の軸(直交座標)で書くので、同じ点でも数値が違って見えます。
| 点 | 入力の値 crystal_b | 教科書の書き方(×2π/a) | ブリルアンゾーンのどこか |
|---|---|---|---|
| Γ | 0 0 0 | (0, 0, 0) | 中心。波長が無限大(k = 0) |
| X | 0 0.5 0.5 | (0, 1, 0) | 正方形の面の中心(6か所) |
| L | 0.5 0.5 0.5 | (−½, ½, ½) | 六角形の面の中心(8か所) |
| K | 0.375 0.75 0.375 | (0, ¾, ¾) | 六角形2枚が接する辺の中点 |
変換は「入力の3つの数 × QE の逆格子ベクトル b₁=(−1,−1,1)、b₂=(1,1,1)、b₃=(−1,1,−1) の和」です。例:X は 0×b₁ + 0.5×b₂ + 0.5×b₃ = (0, 1, 0)。図の点にカーソルを合わせると、両方の座標が表示されます。
SCF 計算の K_POINTS (automatic) 6 6 6 は、この立体の中を6×6×6の網目で均等に調べる指定です。全エネルギーや電子密度を求めるためのもので、経路ではありません。バンド図用の crystal_b は、上の経路の線上だけを調べます。
図1と図2の「結晶方位」ボタンで、方位の矢印を重ねて表示できます。濃い矢印が代表の1本、淡い線が同じ仲間(等価な方位)です。2つの図で同じボタンが連動します。
[100]:角かっこは特定の1方向。立方体の x 軸の向き。<100>:山かっこは等価な方向の仲間全部。[100]、[010]、[001] と、その逆向きを含めて6方向。<110> は12方向、<111> は8方向。(100):丸かっこは面([100] に垂直な面)。「Si(100) ウェハ」の (100) はこちら。立方晶では、実空間の方向 [hkl] と k 空間の方向 (h, k, l) が同じ向きになります。このため、バンド図の区間を結晶方位の言葉で呼べます。
| 方位 | 実空間(図1) | k 空間(図2) | 関係する話題 |
|---|---|---|---|
| <100>(6方向) | 立方体の辺の向き | Γ → X(長さ 1 × 2π/a) | 伝導帯の底(Δ谷)はこの線上。発表2の6つの谷はこの6方向 |
| <110>(12方向) | 面の対角線。同じ副格子で最も近い原子どうしの向き(距離 a/√2 ≒ 3.84 Å) | Γ → K(長さ 0.75√2 ≒ 1.06 × 2π/a) | 講義の経路の最後の区間 K → Γ |
| <111>(8方向) | 体対角線。Si–Si 結合(Si₁ → Si₂)の向き(結合長 √3a/4 ≒ 2.35 Å) | Γ → L(長さ √3/2 ≒ 0.87 × 2π/a) | 経路の最初の区間 L → Γ。第7回の差電子密度で見る結合の向き |
図2の代表矢印は、講義の経路で使っている X (0,1,0)、K (0,¾,¾)、L (−½,½,½) に向けています。図1の代表矢印は立方体の角 Si₁ から [100]、[110]、[111] に向けています。図1で <111> を表示すると、Si₁ から Si₂ への結合が [111] の矢印の上に乗っていることがわかります。
「正面に向ける」の [100]・[110]・[111] を押すと、その方位がまっすぐ手前を向くように図が回ります。図1と図2は同時に同じ向きへ回ります。正面に向けている間は、奥行きで形がゆがまない投影(平行投影)に切り替え、座標軸を隠します。同じ結晶でも、見る向きによって原子の並びがまったく違って見えます。実空間は「2×2×2 に広げる」をオンにすると、並びの模様がわかりやすくなります。
| 視線 | 実空間(図1、2×2×2 がおすすめ) | k 空間(図2) |
|---|---|---|
| [100] | 立方体が正方形に見え、原子が正方形の格子状に並ぶ。4回対称の軸 | 正方形の面(X)が正面の中央に来る。輪郭は八角形 |
| [110] | 原子が2個1組(ダンベル)で並び、その間に六角形の大きなすき間(チャネル)が通る。2回対称の軸。電子顕微鏡で Si を撮るときの定番の向き | 六角形2枚が接する辺(K の位置)が正面に来る。輪郭は六角形 |
| [111] | Si–Si 結合の1本が視線と重なり、原子が三角形・六角形の模様に並ぶ。3回対称の軸 | 六角形の面(L)が正面の中央に来る。輪郭は十二角形 |
実空間と k 空間で、同じ向きから見ると同じ回転対称性(4回・2回・3回)が現れます。図1と図2を見比べると確かめられます。
計算には「細かさ」のつまみが2つあります。波動関数をどこまで細かい波で表すか(ecutwfc)と、k 空間をどれだけ細かい網目で調べるか(K_POINTS)です。上げるほど正確になり、計算は重くなります。そこで、上げても全エネルギーがほとんど変わらなくなる(±2 meV/atom 以内に収まる)一番小さい値を選びます。これが収束性の確認です。
QE は波動関数を平面波(いろいろな細かさの波)の足し合わせで表します。細かい波ほど運動エネルギーが大きいので、「運動エネルギーが ecutwfc 以下の波だけを使う」という形で、使う波の数を決めます。下のデモは、1次元の山形の関数を、細かさの上限を決めた波の足し合わせで表すものです(実際に計算しています)。
灰色が表したい波、青が上限までの波で足し合わせたものです。上限を上げるほど形が正確になります。とがった波(原子核の近くで急に変わる、内殻電子まで含む波)は、同じ精度にするのにずっと細かい波まで必要です。擬ポテンシャルで内殻を除いて波をなめらかにすると、少ない波で済みます。この講義のウルトラソフト擬ポテンシャル(USPP)は、特になめらかにしたものなので、30 Ry という小さめのカットオフで足ります。カットオフ(エネルギー)は波の細かさの2乗に比例するので、スライダーの値を2倍にするとカットオフは4倍です。
全エネルギーや電子密度は、ブリルアンゾーン全体(図2の立体)の足し合わせ(積分)で決まります。実際には網目の点で代表させて足し合わせます。K_POINTS (automatic) 6 6 6 1 1 1 は、各方向を6等分した網目(6×6×6 = 216 点)を半目盛りずらして置く指定です。ただし対称性で同じになる点はまとめられるので、実際に計算するのは 28 点だけです(出力の number of k points= 28)。Si は絶縁体でエネルギーが k に対してなめらかに変わるので、粗い網目でもすぐに正確になります。金属では、何倍も細かい網目が必要になります。
講義と同じ条件(PBE・USPP、ecutrho = 8 × ecutwfc)で、カットオフを9通り(k 点 6×6×6 固定)、k 点を9通り(30 Ry 固定)変えて SCF 計算をしました。縦軸は、全エネルギーの差を1原子あたりの meV に直したものです(Si は2原子なので2で割る。1 Ry = 13.606 eV)。
縦軸は対数目盛りで、帯が判定基準の範囲です。帯の中に入り、それより細かい条件でもずっと帯の中にいる一番左の点を、条件として選びます(赤い印)。「一番細かい条件との差」では 80 Ry と 12×12×12 を正解の代わりにしています。この2つは基準そのものなので図には出していません。点にカーソルを合わせると、全エネルギーとこの PC での計算時間が出ます(時間の注意は表の下)。
| ecutwfc (Ry) | 全エネルギー (Ry) | 80 Ry との差 (meV/atom) | 平面波の数の目安 | 時間 (秒、この PC) |
|---|
| k 点の網目 | 全エネルギー (Ry) | 12×12×12 との差 (meV/atom) | 実際に計算した k 点の数 | 時間 (秒、この PC) |
|---|
「平面波の数の目安」は出力の Smooth grid: … G-vectors の値で、ecutwfc の 3/2 乗に比例します(30 Ry を基準にすると、60 Ry で 23/2 = 2.83 倍。表の値もちょうど 2.83 倍)。カットオフを2倍にすると波の数は約2.8倍になり、計算はそれ以上に重くなります。
mpirun -np 8(8並列)、OMP_NUM_THREADS=1 で実行しました。出力の PWSCF : … WALL(実際にかかった時間)の値です。-np)、同時に動いているほかのソフトによって、秒数は大きく変わります。受講者の PC では、何倍も長くかかることも短く済むこともあります。OMP_NUM_THREADS)を指定せずに実行したため、8つの計算プロセスがそれぞれ CPU のスレッドを全部使おうとして取り合いになり、35 Ry で 41 秒、80 Ry で 217 秒かかっていました。export OMP_NUM_THREADS=1 としてから実行し直すと、同じ計算が 2.1 秒・4.0 秒になりました(全エネルギーは8桁まで同じ)。mpirun で並列にするときは、スレッド数を1にしておくのが基本です。計算の入力と結果は 配布物の qe/03_convergence/ に保存しました。講義の 03_convergence の値(50 Ry までの5点)とも、同じ条件の点では全エネルギーが8桁一致します(例:30 Ry・6×6×6 で −22.83957491 Ry)。
横軸は図2の青緑の線を1本にまっすぐ伸ばしたもので、目盛りの L・Γ・X・K・Γ は図2の点と同じ場所です。縦軸は価電子帯の上端(VBM、Γ点)を 0 eV にしています。伝導帯の底(CBM)は Γ–X の途中にあり、VBM と k の位置が違うので間接遷移型です。この計算のギャップは 0.57 eV です(PBE なので実験値 1.12 eV より小さく出ます)。
色分け:寒色(藍・青・水色・青緑)が価電子帯のバンド1〜4、暖色(赤・橙・黄・茶)が伝導帯のバンド5〜8です。番号は、各 k 点でエネルギーの低い順につけています。そのため、2本が交わる所や重なる所(縮退、たとえば Γ 点の VBM は3本が重なる)では、色の順番が入れ替わって見えます。図4の曲面と右上のバンド図も同じ色です。
できます。ただし k が3次元なので、エネルギーまで含めると4次元になり、そのままでは描けません。k 空間の平面を1枚選び、その上のエネルギーを高さにした曲面として描くのが現実的です。
下の図は、Γ・X・K を含む平面(kz = 0)の上で、価電子帯の一番上のバンドと伝導帯の一番下のバンドを描いたものです。
3つの図は同じ k 点を指しています。左の曲面上の◆、右上のバンド図の縦線と点、右下のブリルアンゾーンの点が一緒に動きます。曲面の上の黒い線は経路に沿ったバンドで、これを1本にまっすぐ伸ばしたものが右上のバンド図です。経路のうち X → K → Γ の区間は、もとの経路(右下の実線)を x と z を入れ替える対称操作で kz = 0 面の中の同等な道(右下の点線)に移して、曲面上に表示しています。L → Γ の区間はどう動かしても kz = 0 面に乗らないので、曲面上の点は消えます。
床の八角形は、ブリルアンゾーンを kz = 0 で切った断面です。下の曲面(価電子帯)は中心 Γ が山頂で、ここが VBM です。上の曲面(伝導帯)には4つのくぼみがあり、それぞれ Γ から X 方向に約 85% の位置です。これが図2の伝導帯の谷のうち、この平面に乗っている4つです(残りの2つは kz 方向なので、この平面には現れません)。図3のバンド図の Γ–X 区間は、この曲面を Γ から X へまっすぐ切った断面です。
| 描き方 | 見えるもの | 計算の手間 |
|---|---|---|
| 平面上の曲面(上の図) | VBM の山、CBM の谷、山と谷の位置のずれ(間接遷移)が一目でわかる | 平面上に 31×31 点を並べた bands 計算。この PC で約30秒 |
| 等エネルギー面 | CBM 付近の等エネルギー面が6つのラグビーボール形になる。発展編の有効質量の向き依存(縦・横)を直接見せられる | 3次元の網目で計算が必要。点数が多いので数分〜十数分程度の見込み(未実施) |
| 経路のバンド図(図3) | 決まった道の上だけ。論文・スライドの標準 | 最小 |
計算の方法:kz = 0 平面の 1/4(kx, ky ≥ 0)を K_POINTS (tpiba) で 961 点並べて calculation = 'bands' を実行し、立方対称性(E(±kx, ±ky) が等しい)で全体に広げました。
バンド図は「どの k で、どのエネルギーか」を見る図でした。DOS(状態密度)は k をまとめてしまい、「あるエネルギーに状態がいくつあるか」だけを数えた図です。PDOS(部分状態密度)は、その状態を s 軌道・p 軌道などの成分に分けたものです。
ブリルアンゾーンの中に網目状に k 点を置き、各 k 点の8本のバンドのエネルギーを全部集めて、エネルギーごとに数えます。数えるときは、各エネルギーに幅を持たせた山(ガウス関数)を置いて足し合わせます。下の図は、QE の nscf 計算で出したエネルギーを、ページの中で実際に数えたものです。
網目が粗い(4×4×4)と、数えるエネルギーが少なくてトゲトゲになります。山の幅を広げるとなめらかになりますが、細かい形がつぶれます。講義の DOS は 12×12×12 の網目で、さらに四面体法(k 点の間をつないで補間する数え方、灰色の線)を使っています。SCF(6×6×6)とは別に nscf 計算をするのは、DOS には SCF より細かい網目が必要だからです(電子密度は SCF のものをそのまま使い、エネルギーだけを細かい網目で計算し直す)。どの網目でも、0 eV(VBM)までに数えた状態の数は 8(電子 8 個ぶん)になります。
同じエネルギーの高さで、左にバンド図、右に DOS・PDOS を並べました。縦の位置をそろえてあるので、カーソルを合わせると横に点線が伸びます。
左:バンド図(図3と同じ経路)。点の色は、その状態の s 成分と p 成分の割合です(橙が s、紫が p、灰色は半々)。右:PDOS(橙が 3s、紫が 3p の積み上げ、点線が全 DOS)。「s・p の割合」に切り替えると、各エネルギーで s と p が何割ずつかが分かります。薄い橙の帯がギャップで、DOS もこの範囲でゼロになります(DOS がゼロの範囲は −0.01〜0.64 eV。バンド図のギャップ 0.57 eV と、DOS の刻み 0.05 eV の範囲で一致)。点にカーソルを合わせると s : p の比が出ます。
calculation = 'nscf'、occupations = 'tetrahedra'、K_POINTS 12 12 12 1 1 1。電子密度は固定したまま、細かい網目でエネルギーだけ計算し直す。silicon.dos.dat、列は エネルギー・DOS・積分した数)。silicon.pdos.pdos_atm#1(Si)_wfc#1(s) など、原子ごと・軌道ごとのファイル)。projwfc.x は、結晶の状態を「原子の 3s と 3p の組み合わせ」で表そうとします。表しきれなかった割合が出力の Spilling Parameter で、この計算では 0.0091(約1%) です。小さいほど、s・p だけで状態がよく表せていることを意味します。左の図のファットバンドは、バンド計算の後に projwfc.x を実行して求めました(lsym = .false.)。
電子密度 ρ(r) は、SCF 計算の答えそのもの(第1回の手順⑦で出てくる密度)です。そこから「孤立した原子の密度を重ねただけのもの」を引くと、結晶になったことで電子がどこに移動したかだけが残ります。これが差電子密度 Δρ です。
plot_num = 0(ρ)と plot_num = 9(Δρ)Si–Si 結合は <111> 方向を向いているので、結合をまっすぐ含む (1−10) 面で切ります。横が [110] 方向、縦が [001] 方向で、Si 原子がジグザグにつながった鎖が見えます(図1で [110] から見た並びの断面です)。「断面」のボタンで、水平の (001) 面と、結合に垂直な (111) 面にも切り替えられます。右のグラフ(結合に沿った密度)はどの断面でも同じです。
左:(1−10) 面の断面(橙の点が Si 原子、点線が Si–Si 結合)。ボタンで3つを切り替えられます。「結晶の密度」は原子のまわりと結合のところが濃く、「原子の重ね合わせ」は原子を中心とした丸い分布です。その差「Δρ」では、結合の中央に赤いかたまり(電子が集まった所)が並び、原子の外側には青(電子が減った所)が出ます。右:Si 原子から隣の Si 原子まで、結合に沿って密度を追ったものです。結合の中点では、結晶の密度 0.083 e/bohr³ に対して原子を重ねただけなら 0.056 e/bohr³ で、差は +0.028 e/bohr³(約5割増し)です。なお、原子の中心(グラフの両端)でも Δρ が正(+0.029)になりますが、ここは擬ポテンシャルで内殻を置き換えた「芯」の内側(原子の中心のごく近く)で、計算上の扱いの違いが表れる場所です。結合の議論では、原子と原子の間の分布を見ます。
Δρ が同じ値になる面(等値面)を、立方体(慣用格子)の中に描きました。スライド8 と同じく、値を 0.003 → 0.007 e/bohr³ と上げていくと、弱い成分が消えても結合の中央の電子のかたまりが残ります。
赤が Δρ > 0 の等値面です。どの値でも、Si–Si 結合(灰色の線)の真ん中に、結合の向きに沿ったかたまりが現れます。これが「方向性をもつ共有結合」の姿です。原子の中心を包む小さな赤いかたまりは、擬ポテンシャルの芯の内側の値で、結合とは別のものです(上の右のグラフの両端に当たる)。値の色(正が赤、負が青)は表示の設定で決まるもので、VESTA の既定の色とは逆のこともあります。スライドの図と比べるときは、色ではなく Δρ の符号の定義で確かめてください。
plot_num = 0 で ρ、plot_num = 9 で Δρ(原子の密度の重ね合わせを引いたもの)を取り出す。iflag = 3(3次元)、output_format = 5(XSF)または 6(cube)で、VESTA に読み込める形にする。このページの図は、講義の 07_charge_density と同じ入力で pp.x を実行した cube ファイル(基本格子の 36×36×36 の網目)を、立方体と (1−10) 面の網目に補間して描いています。電子密度を全体で足し合わせると 8.000 個(価電子 4 個 × 2 原子)、差電子密度を足し合わせるとほぼ 0 になり(電子が移動しただけで、増えも減りもしない)、どちらも定義どおりです。擬ポテンシャルを使っているので、ここでの電子密度は価電子だけのもので、内殻の 1s・2s・2p 電子は含みません。
数値の出典:Quantum ESPRESSO 7.6、PBE、Si.pbe-n-rrkjus_psl.1.0.0.UPF、ecutwfc 30 Ry / ecutrho 240 Ry、SCF k 点 6×6×6、celldm(1) = 10.26 bohr(講義の 04_band_calc と同じ条件)。経路は L–Γ–X–K–Γ を 30/30/12/30 分割。入力一式と計算結果は配布物の qe/ フォルダに同梱。エネルギーは VBM(Γ)基準。